こんにちは。予防獣医師の直良です。
みなさんは、愛猫の健康管理のためにどんな工夫をしていますか?
食事や水など、いろんなことができるとは思いますが、今回は
猫のための環境管理
という観点からお話ししようともいます。
最近猫ちゃんでも生活習慣病が増え続けています。
がん、糖尿病、腎不全…
さらに、もっと深刻だといわれているのが
「生活環境病」です。

予防的ライフスタイルには「生活観」「生活習慣」「生活環境」の改善が重要という話も以前させていただきました。
愛猫ちゃんのためにできる環境管理とはどういったものがあるのか?
みていきたいと思います。
目次
愛猫のための環境管理に重要な「環境エンリッチメント」

みなさんは
環境エンリッチメント "environmental enrichment"
という言葉を聞いたことはありますか?
“enrichment”は「豊かにする」という意味の英語ですが、
環境の質を上げ、豊かにすることを意味します。
これは動物福祉の観点から生まれた言葉であり、はじめは動物園の飼育管理から生まれた言葉です。
もともとは野生動物だった動物たちを檻の中で生活させることは動物たちにとって相当なストレスです。そして、そのストレスが過剰になると正常な行動ができなくなる(異常行動、常同行動)こともあり、ストレスによって病気になったり死亡したりする例が後を絶ちません。
そこで、動物園の中で暮らす動物たちの生活環境を改善してストレス低減につなげようとする動きから「環境エンリッチメント」という概念がうまれたのです。
- 大きく運動をする動物には広さを確保する。
- 上下運動をたくさんする動物には高さや段差、木を備え付ける。
- 糞尿掃除など、衛生管理を徹底する
といったことです。
これはもちろん猫ちゃんにも当てはまります。
愛猫(イエネコ)にとってより豊かな生活を送れるような環境にしていくことが、我々飼い主側の務めでもあります。
愛猫の環境エンリッチメントを行うことで、日々のストレス低減につながり、生活環境病を未然に防ぐことができるのです。
方針としては
愛猫にとってストレスリリーフ(ストレスが軽減されるよう)な
環境を作り上げること
ということになりますね。
それでは具体的にはどのような環境にしていけば良いのでしょうか?代表的なものをご紹介します。
ここでは環境エンリッチメントについて
- 空間エンリッチメント(空間的良化)
- 感覚エンリッチメント(感受的良化)
- 飲食エンリッチメント(採食飲水的良化)
に分けて考えていきたいと思います。
また、愛猫の体質や気質によってもエンリッチメントの方向性は変わることもあるので、あくまでイエネコ全体のお話としてみていってください。
愛猫の空間エンリッチメント(空間的良化)

まずは空間エンリッチメントからです。愛猫にとってより良い空間を創造するということになります。
基本的な方針としては
猫がよりイキイキとできる空間を創造する
猫が猫らしく行動できる(行動特性)空間を創造する
となります。
猫の行動特性(猫らしい行動)はたとえば
- 上下運動(跳躍)
- 瞬発的なダッシュ
- 十分な休息
などがあると思います。

まず重要になるのが
垂直スペースの確保によって上下運動(跳躍)を可能にする
ことですよね^^
猫科動物は木登りを得意とし、人間の何倍もの跳躍力をもっています。
また、バランス感覚も優れているので、滅多に落ちることはありません。落ちたとしても数秒で着地体制に入ることができるのです。
そんな猫ちゃんには垂直方向に移動できる段差(キャットタワー)が空間エンリッチメントでは重要になります。
高いところは猫ちゃんが安心できる場所にもなります。
また、瞬発的なダッシュをする際に重要なのがフロアの素材です。
滑りやすい床素材ではなく、滑りにくいものを利用する
ことも重要です。
しかし、上下運動や跳躍で少し注意するべきことがあります。
そして猫は十分な休息をとるいきものです。なので
隠れ家、自分だけのスペース
という場所の確保も重要です。
隠れ家は広さとある程度の暗さが重要とされています。
まだ隠れ家を用意していない、あまり人間が踏み込まない猫だけのスペースというものをまだ用意されてない方は、まずはトライしてみてください^^

そして、、、空間エンリッチメントでの注意点が一つ。
スコティッシュフォールド、マンチカン、アメリカンカールなどの「骨軟骨異形成症」になりやすい品種の場合
- 骨瘤(関節が固く腫れること)
- 関節の変形
- 関節炎
などをおこしやすくなります。
もっとも使用する頻度の高い肢に症状が起きやすいので、このような猫種の場合は予防的には過度な運動は控えたほうが良いという考え方もあります。
こちらについてはより具体的な細かい話になるので、ペットライフコンシェルジュの方でお伝えできればと思います。
愛猫の感覚エンリッチメント(感覚的良化)

次に、感覚エンリッチメントです。
これは、愛猫ちゃんの五感に影響するエンリッチメントのことで、刺激を感覚として受容する際に、大きな不快ストレスをうまないことがポイントとなります。
視覚的エンリッチメント

ねこちゃんの視覚から入り込む情報に関するエンリッチメントです。
たとえば、窓から外の様子を眺められるようにするというのも一つです。屋外の自然やいきものたちを眺めることもストレスリリーフになり、視覚的満足感を得られます。これは人間でも同じですよね。
空間エンリッチメントのところでも言っていますが、日光が差し込む場所を用意することも重要になります。

しかし、注意点としては、ライバルや敵となる他の動物(猫)などがよく窓の外をうろうろしている場合は、逆にストレスになることもあります。臨機応変に対応しましょう。
逆に、部屋がまぶしすぎるというのを嫌う猫ちゃんもいます。部屋の明るさとしては、明るすぎず適度な落ち着いた明るさに調整することも考えてみるといいかもしれません。もともと夜行性のいきものだからということもあるかもしれません。
聴覚的エンリッチメント

騒音は避けましょう。
ねこちゃんは落ち着いた環境を好むので、安心できないような音が鳴っている場所は避ける必要があります。
また、突発的な大きな音を出すこともNGです。とても臆病なねこちゃんの場合、大きなストレスになって脱走したり、ずっと押し入れの奥にこもってしまったりしてしまうこともあります。
嗅覚的エンリッチメント

ねこの嗅覚は犬ほどではないのですが、はるかに人間の嗅覚レベルを上回ります。
あまり強すぎる香料、アロマなどは避けたほうが良いです。人間が心地いいと思っていても、愛猫ちゃんにとっては不快に感じることもあります。
キャットニップ(イヌハッカ)やマタタビなど、ねこちゃんが好きなものを利用しても良いと思います。ストレス解消やリラックス効果をもたらります。
たまに合わないねこちゃんもいますので、その場合は使用を控えましょう。

また、ねこちゃんの多くが嫌うにおいの種類として「柑橘系(シトラス系)」があげられます。シトラスの香りはできるだけ避けて選んだほうが良いと思います。
愛猫の飲食エンリッチメント(採食飲水良化)

みなさんは、愛猫ちゃんがどのように食事をするか改めて考えたことがありますか?
ねこちゃんはもともとハンターです。
Hunt & Eat 狩りをして食べる
これが猫の基本的な食事スタイルです。
まったく野生と同じように食事をすることは不可能ですし、逆にそれが大きなストレスになるので、完全再現まではしなくてもいいのですが、狩りをするという要素を簡単に再現することができます。
つまり、食事にありつくための工夫をよういしていくことで、疑似的に狩りを再現することができます。
こういった獲物を狩るという刺激を加えていくことも飲食エンリッチメントを高める要因になります。
食事を隠して探索欲求を刺激する

猫には犬と同様に「探索欲求」という欲求があります。
目的物を探すことが欲求を満たすことにつながるのです。
わんちゃんだったら散歩中にクンクンにおいをかいで探索欲求を満たしますが、散歩をしない猫ちゃんの場合、自宅の中で探索欲求を満たすことになります。
その時に一番効果的なのが「食事の時間」です。
食事という最高の目的物の一部を部屋のどこかに隠し、嗅覚などを頼りに探してもらうのです^^
たとえば、食事の一部を給餌皿に入れて、そのほかは部屋の複数個所に隠しておくという方法です。
飼い主さんが手で給餌する
これは飼い主さんとのコミュニケーションやスキンシップにもつながる方法です。さらに、定期的にこまめにあげると、より野生の猫ちゃんと同じような食生活になります。野生では、一日二回などと決められてはおらず、少しずつ食事を食べていくのです。給餌皿にドカンと食事を置くだけではなく、遊びながら少しずつあげていくと良いでしょう。
さらに、食事や給水器を置く場所に関しては
- 縄張的位置
- 獣道的位置
- 飲食的位置
という考え方もありますが、別の記事(飲食エンリッチメントの記事)で詳しくご紹介しますね^^
Hunt & Eat を再現するために他にもできることがあります。
給餌用玩具を利用する
というものです。
最近ではねこちゃんが食事をするときに遊びながら食べられるおもちゃもたくさん販売されています。
いろいろありますので、誤食のリスクが少ない安心安全なものを選んでみましょう。
環境エンリッチメントはできることから始めましょう

愛猫ちゃんにできる環境エンリッチメントについていろいろご紹介してきましたが、
いきなり一気に実践する必要はありません。
まだ実践していないな、これなら気軽に始められるな。
そんなものから実践してみるといいと思います。
飼い主さんが無理をしてしまっては意味がありませんので、飼い主さんも愛猫ちゃんもストレスリリーフできる方法を探してみて、ぜひ実践してみて下さい!
また、愛猫ちゃんに適した環境エンリッチメントについては一対一の「ペットライフコンシェルジュ」でも対応していく予定です。
愛猫ちゃんの生活の質を上げて、生活環境病やストレスからくる病を未然に防いでいきましょう^^
予防はエンターテイメントです!
環境エンリッチメントによって
生活の質の向上と
生活環境病の予防ができます
予防獣医師 直良拓朗

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